何がしたいか決まってなくても大丈夫
これから受験を考えている学生の皆さんへ伝えたいメッセージというものは数を挙げればきりがありませんが、やはり一番は「今の時点で将来何がしたいか決まっていなくても大丈夫」ということです。
アメリカリベラルアーツ進学を考えるにあたって、「リベラルアーツに入って何がしたいのか」という質問はもちろんグルーバンクロフト基金の面接時のみでなく、親や教師からも何度も聞かれることになると思います。確かに、日本の大学生は受験の前の段階で、どの学部を専攻し、またその学部によって将来どのような道を歩むのかを漠然とでも考えなくてはいけません。それ以前に高校の段階から、理系や文系といった区分で自らの選択肢を絞るようなことも慣習として受け入れられています。そんな環境の中で、周りの大人たちが「なぜリベラルアーツなんかで中途半端なことがしたいのか?他にはっきりとやりたいことは決まっていないのか?」と疑問に思うのは無理もないかもしれません。ですが、在校生として、リベラルアーツの魅力はまさにそこにあると断言できます。リベラルアーツは今やりたいことがわからない人にこそ向いています。
僕は現在Knox Collegeで神経科学と心理学の二重専攻をしていて、卒業後もこの分野の勉強を続けたいと思うほど熱中していますが、僕が専攻を決めたのはたったの1年前です。高校在学中は、英語が得意ながら数学の成績が低かったせいで、自他ともに文系の進路に進むことになるのかと考えていました。グルー基金に受験する際や、その後合格し、進学を控えているときも将来やりたいことははっきりと決まっておらず、漠然とお金になるようなキャリアを目指そうとしていました。神経科学はおろか理系に進むことなどまったく選択肢にはない状態です。今振り返ってみると無理もなかったと思います。理系文系という意味のないカテゴリの中で理系に苦手意識を持ち始め、結果的に選択肢から排除してしまったことがまず一つ。それから、ひとつも授業を取ったことのない状態でどの専攻が自身に合っているのかどうかを判断し、下手すればそれを生涯続ける覚悟を決めることなどできるわけがありません。できたとしてもそこまで不必要なリスクを負う理由も見つからない。親や教師から、将来に関して質問されても答えられない、同じような状況下にいる高校生の方やグルーバンクロフト基金の受験を考えている方は多いと思います。それでもまったく問題ないと僕は思います。逆に、それがリベラルアーツ進学を決める理由になるとすら思います。
Knox Collegeでは2年生の終わりまで生徒は専攻を自由に模索することができ、その後も比較的自由に専攻を変えることができます。生徒はその間様々な分野の気になる授業を味見することができ、向いていないと思えばまた別の分野を試し、向いていると思えば続け、そうやって手探りをしていく中で、やがて自分が生涯続けたいと思える何かに専攻を決める。漠然とリスクを取るのではなく、自分が何をしたいのか、アドバイザーや教授の助けもありながらじっくりと悩み、試し、考えることができる。これがリベラルアーツの一番の強みだと思います。さらに、その手探りの中で蓄えた他分野にわたる知識は、専攻を決めた後にこそ輝くと思います。僕は人類学や映画、歴史といった分野を試し、結果的に自分には合わないと判断することができましたが、例えばそれらの授業で学んだ文化や時代によって変化する価値観や道徳の知識は、道徳心理学の分野で大いに役立ちました。
ただ、この比較的自由に自分の好きなことを模索できるという点は、裏を返せばリベラルアーツの弱点にもなります。やりたいことが決まった後の専門性、つまり上級クラスのレベルや充実度は総合大学に比べやはり劣るところはあると思います。僕のアドバイスとしては、大学の留学制度を利用しその点をカバーする、というものです。Knox Collegeでは世界中に留学可能な大学があり、その中には専門的なコースも多くあります。僕は現にその留学制度を使ってオックスフォード大学で半年にわたって神経科学のみを専門的に勉強しています。今のプランではこのまま大学院に進み研究を続けたいと考えていますが、この道もリベラルアーツに進み試行錯誤しなくては選択肢にすら入っていなかったと思います。長くなりましたが、少しでもこのメッセージが受験や進学を控える皆さんの手助けになれば幸いです。