奨学生の声

人生で一番充実した時間

<strong>日高 健</strong><br /> 留学先大学:Carleton College(ミネソタ州) <br /> 2016年卒業<br /> 専攻:Cinema and Media Studies<br /> 出身高校:学習院高等科<br /> 職業:一般社団法人小布施まちイノベーションHUB 理事・事務局長<br /> 日高 健
留学先大学:Carleton College(ミネソタ州)
2016年卒業
専攻:Cinema and Media Studies
出身高校:学習院高等科
職業:一般社団法人小布施まちイノベーションHUB 理事・事務局長

自分で考えて学びたい、リベラルアーツ・カレッジへの進学を志したきっかけはそんな願望でした。遡ること高校1年の夏、私は1年間の交換留学プログラムでアメリカ・ニューハンプシャー州に旅立ちました。価値観も言語も異なるホストファミリーと一緒に暮らし、白人がほぼ大半を占める高校で学んだその1年間は、16歳だった私に大きな衝撃を与えました。その一例が日米の高校での授業形式の違いでした。教壇に立つ先生の講義をひたすらノートに記録し、試験に向けてその内容を暗記するという日本の高校とは大きく異なり、留学先の高校では英文学の授業で小説の主人公の心情についてクラスメイトとディスカッションをしたり、世界史の授業で中世の人々の暮らしについて仮装して発表をしたりと生徒の主体性に重きを置いていました。「大学でもこんな環境で勉強したい」と思い、少人数でのディスカッションを授業の根幹に据えるリベラルアーツ・カレッジへの進学を決めるに至ったのでした。

Carletonの魅力

そんな経緯で進学した、Carleton。その魅力を一言で表すと「寒いけど、アツくて、あったかい」と言えるのではないかと思います。カナダと国境を接するミネソタ州にあるキャンパスでは真冬には体感温度がマイナス30℃にもなり、教室へ向かう5分間でまつげが凍りついて目が開かなくなってしまうようなこともありました。しかし、その寒さを吹き飛ばすような「アツさ」を胸に秘めた教授や学生が集っていました。芸術作品の持つメッセージに心動かされ涙を流しながらも熱く語る美術史の教授や、自分の故郷を流れる川の水質汚染を止めるべく地質学を勉強する学生に囲まれ、「ガチ」で勉強に取り組むにはこの上ない環境でした。また、Carletonは学問に没頭していても決して周囲への気遣いも忘れない「あったかい」心を持った人のコミュニティでもありました。教授の家に招待されて食事をともにしたり、寮のラウンジで難解な数学の問題を友達と教えあったりと、お互い支えあう姿勢を一人一人が持っていて、自分は一人ではないと実感できる場所でした。

卒業後の進路

・映画への憧れ
ヒッチコックの作品を解釈して論文を書いたり、短編ドキュメンタリーを作ったりというCinema and Media Studiesを専攻していた私は当初、映画業界への就職を考えていました。自分の世界観や問題意識を多くの人と共有できる映画という媒体に非常に大きな魅力を感じたのです。しかし、ハリウッドで活動する卒業生との会話やインターンシップを通じて現実の厳しさを思い知りました。自分の思い通りに作品を発表できるようになるまでには長い下積み期間が欠かせず、また生計を立てるためにアルバイトなどを兼業する必要があることを知り、映画のためにそこまでを犠牲にする覚悟は自分にはないという結論に至りました。

・経営コンサルティングへの就職
様々な課題を批判的に分析し、人とのコミュニケーションを通じて解決策を導き出すような仕事はないだろうかと考えていた時に出会ったのが経営コンサルティングでした。企業の業績の改善や新市場への進出などをサポートするその職業に魅力を感じ、卒業後日本に帰国して外資系のコンサルティングファームに就職しました。現在入社してから数ヶ月しか経っていませんが、ショートカットを駆使したエクセルの操作方法といった基礎スキルから、日本企業が直面する経営課題についての専門的な知識までを習得できる環境で、社会人としての一歩を踏み出す場所としては非常に恵まれていると感じています。一方で、自分がいかに力不足かを実感して落ち込んだり、想像していたものと実際の仕事の内容との違いに苦悩することもしばしばあります。大学でもはじめは途方もなく思えた論文や試験を乗り越え充実した4年間を過ごすことができたのだから今度も全力で取り組めば先が見えてくる、そう自分に言い聞かせて日々の仕事に向かっています。

リベラルアーツについて

・自分の声に耳を傾ける
リベラルアーツ・カレッジに進学して学んだことの一つは「自分の声に耳を傾ける」ということだと思います。入学当初は英語での講義についていくのに精一杯で、少人数の授業でどうやってディスカッションに貢献できるのか、どうやって自分らしさを発揮できるのか悩みました。しかし少しずつ質問や発言をするようになって、意外と他のクラスメイトも自分と同じ疑問を抱いていたり、自分の発言が議論の新たな展開につながったりすることに気がつきました。画期的な視点から示唆に富む指摘ができる人というのは、ただ知識が豊富なのではなく、自分の頭の奥のかすかな声に正面から向き合うことのできる人なのではないかと気づかされました。

・自分の声を外に発信する
自分の声に耳を傾けるだけでなく、その声を「外に発信する」ことも同時に学びました。高校時代の私は何か壁にぶち当たると一人で悶々と考える傾向がありました。しかし全寮制のCarletonは教室でも食堂でも、ジョギングコースでもトイレでも友達と顔を合わせるような環境で、”How are you?”のあいさつから宿題の愚痴や悩み事の相談が始まることもしばしばでした。自分が今何についてどう感じているのかを意識して言葉にする習慣が気付かないうちに身についていったように思います。今までなら自分一人で抱え込んでいたような悩みも親しい友人に共有するようになり、他人に依存してしまったり理解してもらえない恐怖を乗り越え、より密接な関係を築くことができたように思います。

リベラルアーツ・カレッジに進学して得られたものは数え切れず、幅広い科目を履修して得た知識や少人数のディスカッションで鍛えた論理的思考力などは社会人となった今かけがえのない財産となっています。しかし、それ以上に、自分がどんな人間なのかをじっくり考え、自分ならではの視点をどう分かち合えば良いのかを試行錯誤できた4年間は自分の人生のなかでも非常に充実した時間であったと思います。(2016年記)

募集要項