Carleton College

大草原の大きな家

About

2021年現在、8年連続でU.S. News & World Reportから全米1位の学部教育(#1 Best Undergraduate Teaching)との評価を受ける1866年設立のカールトンカレッジ。夏は35度、冬は氷点下35度にもなる気まぐれな天気に時には翻弄されながら、優秀かつ熱意あふれる教授に囲まれて、米国内外から集まった2000人の学生が暮らしている。真面目で優しく、それでいてどこか変わった人で溢れるキャンパスには暖かくのんびりとした雰囲気が流れており、教授や友人との出会いに恵まれながらトウモロコシ畑の真ん中で自分の「好き」に没頭する、そんな環境がミネソタ州都から1時間離れた町ノースフィールドにはある。

目次:

1. About Curriculum (どんな学び︖)

カールトンは秋・冬・春の3学期制を採用しており、各10週間で基本的には3つの授業を選択する。一般教養の要件と自分の選んだ専攻科目の要件を満たす分の授業をとって、Compsと呼ばれる卒業研究に取り組む以外、授業選択には何も制約がない。唯一大学側から必修とされるのが1年次秋学期のA&I Seminarで、歴史、哲学、政治科学などの各授業に興味に応じて割り振られた新入生が、15名程度の少人数でディスカッションを中心にしながらエッセイ・プレゼンにも取り組み、カールトンに学びの面で少しずつ適応していく授業になっている。その他の一般教養要件にはHumanistic Inquiry(歴史や哲学)、Literary/Artistic AnalysisSocial Inquiry(政治科学や心理学)などがあり、これらをクリアしようとする中で学問的な視野が広がったことも多々あった。ただ、それを差し引いても履修選択の自由度は非常に高く、来学期にどの授業をとるかで悩む学生、というのは毎学期末お馴染みの光景だった。ちなみに、オーケストラやジャズバンドなどの音楽系アンサンブルや個別のレッスンは1単位の授業(通常の授業は6単位)として登録されており、音楽を専門とする教員からの指導を受けることができる。貸し出し制度を使って新たな楽器を始める友人も少なくなかった。

こうした枠組みの中で履修選択をするわけだが、その各授業において教授との距離が非常に近いのがカールトンの大きな強みである。教授たちは口を揃えて「優秀な学生と直接触れ合える学部教育が好きだからカールトンを選んだ」と言い、オフィスアワーにいけば授業に関連する質問から自分の将来に関する相談までできるのは非常に恵まれていると思う。教授が学生のことをいかに気にかけているか実感したのは3年生の冬学期のことで、構内のカフェで友達を待っていると、1年次に履修した宗教学の教授から「Hiromichiだよね、調子はどう?」と話しかけられた。数学専攻だった自分が政治学の教授から11でのお茶に誘われることもあったように、様々な分野の教授と関係性を築けるのはカールトンの特徴かと思う。当然、専攻やそれに近い分野の教授との距離も非常に近く、研究を一緒に行っている学生も、下級生を含めて多いように感じた。また、教授同士の距離が近いのもカールトンならではだと思う。関連する分野の教授の間でも交流はあり、履修中の授業の教授に自分の興味を伝えると「なら〇〇教授の研究手伝ってみたら面白いんじゃない?」と別の教授を紹介してもらうこともあった。こうした教授陣が教える授業は基本的に少人数制で生徒の発言数も非常に多く、人文学系の授業でディスカッションが多いのは当然として、理数系の授業でもわからなければすぐにみんな質問をしていた。自分の意見を述べる場が多くあるためクラスメイトの人となりも授業を通してわかるようになり、興味を持って話しかけ、一緒に課題に取り組むうちに仲良くなってできた友人も大勢いた。

IDSC 250 Color!

4年生最後の学期に取ったカールトンらしさ全開の授業。科目名IDSCInterdisciplinary(分野横断的)の略称で、お互いに仲のいい哲学・物理学・心理学の教授3人が「色」というテーマについて各分野からの視点を持ち寄り授業が進む。オフィスアワーでは自分一人に対して教授3人という時間もあるほどで、とても贅沢な環境だった。

2. About Students (学生の雰囲気は?)

Carlsと自称するカールトンの学生像を一言で表すならば、「真面目であたたかい、それでいてどこか変わった人たち」になるだろうか。ミネソタの田舎町でGreek Lifeもない比較的落ち着いた雰囲気の中、素晴らしい教授に影響されて自分の興味ある学問に熱中している学生が多いと感じる。授業や課外活動の合間を縫って図書館やカフェテリアなどで生徒が課題をこなしているのは日常の風景だが、そんな真面目な学生が揃いも揃ってあたたかいのがカールトンの大きな特徴かと思う。“Carls help Carls”(カールトンの人はカールトンの人を助ける)とキャンパスではよく耳にするが、事実その通りで、図書館などで一緒に勉強したり、同じ授業の友達と手詰まりになった課題で助け合ったりするのは当たり前なのだ。ひょっとすると、自分の課題と同じくらいの時間、友達を助けている日もあったかもしれない。学問が好きで向上心の強い真面目な学生たちが、「隣の人よりよい自分」ではなく、シンプルに「よりよい自分」を手を取り合いながら目指す、そんな雰囲気が流れている。授業のTAを同級生や下級生がやっていたり、入学したばかりの留学生には1年間に渡り留学生の上級生がメンターについたり、学年に囚われずにカールトンの学生として助け合う機会が豊富にあることもあたたかい雰囲気を作る一助になっているだろう。加えて、毎週金曜日、キャンパスに来る花屋から花束を買い、感謝を伝えたい友達の郵便受けに差し込むFriday Flowersも、あたたかみを感じられる伝統ではないだろうか。

真面目さ・優しさを備えながらも、少し変わった人が多いのもカールトンの学生の特徴だ。期末試験前のふたつの行事はその変人らしさを特に象徴していると思う。22時から学生が食堂に集まり、学長たちから朝食用の料理をもらって席につき、22時半から1分間思い思いの叫び声を上げ続けるPrimal Scream、その後、23時に図書館にヘッドフォンをつけて集まり、事前配布のプレイリストで音楽を同時に聴きながら無言でキャンパス中を踊り回るSilent Dance Partyともに、ストレス発散にはこの上ない伝統だ。

3. Being in the U.S. (留学生への支援は?)

卒業1週間前に、留学生の友達と。<br /> 卒業1週間前に、留学生の友達と。

留学生が全体の1割を占めるカールトンの留学生への支援は手厚く、特に1年生の間はアメリカの生活に慣れるための制度が数多く存在している。個人的に一番助けられたのは留学生オリエンテーションだった。1年生の秋学期が始まる前、全新入生用のオリエンテーションより5日ほど早く留学生だけがキャンパスに集まり、銀行口座の開設・寮生活の必需品のショッピング・異文化に慣れるためのアドバイス・留学生として米国内で注意すべき点の説明会などが予定表には並ぶ。ただ、そうしたプログラム以上に、4年間をともに過ごす留学生の仲間達との親睦を深め、キャンパスの建物の所在地や役割に慣れる時間がゆっくり取れたことが大きかったと感じる。留学生オフィスの支援は4年間を通して続き、学校内外でアルバイトを始めるときや就活時、ビザに関わる米国政府の方針が更新されたとき、また、在留資格を維持するために必要な確定申告の時期など、重要なタイミングで留学生全体に連絡がくるようになっている。

学業面で言えば、Writing Centerという場所を非常によく使った。提出前のエッセイや履歴書・志望動機書などについて、一対一で1時間ほど相談に乗ってもらうことができ、単純な文法やスペルミスなどの確認に止まらず、より伝わりやすい表現方法を一緒に考えてもらうこともある。また、人文系の授業を複数とり、多くのエッセイを書くことになる学生向けには学期を通じて毎週1、2時間ほどミーティングを続ける制度も設けられている。留学生に限った話ではなく、そもそも支援が手厚いのがカールトンの特徴ではあるが、「手厚い支援」は自分から動き出さなければ受けられないことには留意すべきだと思う。Writing Centerや教授のオフィスアワー、キャリア相談所のCareer Centerなど、豊富にある制度の側から生徒に働きかけることは稀であり、無為に待っていても助けはこない。ただ、友人や教授への相談などを通して一歩目を踏み出せば、手厚い支援体制が整っていることは確かだ。

4. About Extracurricular (課外活動は?)

Weitz Center にはコンサートホールや防音の練習室など、学生が使える贅沢な芸術用の設備が満載。<br /> Weitz Center にはコンサートホールや防音の練習室など、学生が使える贅沢な芸術用の設備が満載。

カールトンでの課外活動は大まかにクラブ・ボランティア・アルバイトの3種類に分けられ、精力的に参加している人も多い。ただ、学業面でも必要な時間が多いため、関わり具合は学期中の忙しさに左右される部分も多く、多くの活動に参加している人ばかりというわけでもない印象を受けた。クラブに関してはカールトンのWebサイトで“Student Organizations”と検索すると学生団体の仮一覧が出てくるので深くは触れないことにするが、教育系、芸術系、スポーツ系、政治・言論系や宗教系など多岐に渡り、その中に自らの興味に合致するものがなければ友達を誘って新たにクラブを作ってしまうことも可能だ。例えば、アカペラというくくりの中でも、曲のジャンルや性別構成などで計6グループほど存在している。また、ボランティアに関してもクラブと明確に区別されているわけではなく、地元の学校を訪れて生徒の学習支援をしたり、現地の小学生と毎週一対一で時間を過ごしたり、校内の食品廃棄物やゴミを減らす活動をしたりなど、社会貢献するための機会が数多く存在している。クラブ・ボランティアという2つに関しては出願時にも話をよく聞いていた一方、3つ目のアルバイトに関して「課外活動」としての一面を気付かされたのは渡米後だった。Student Employmentと一括りにされる学内アルバイトだが、一口に言っても内容は様々で、どの部署で働くかによって業務内容は全く異なる。例えば、食堂での配膳やキャンパス内の施設清掃の仕事をするなら当然内職などはできるわけもないが、図書館での貸出業務や体育館の受付デスクなどで働けば、人が来ない間に課題を進めることも可能だ。他にも、プログラミング経験がある学生ならば教授や生徒の研究プロジェクトにおけるデータ収集・分析を手伝う部署や、学内資料を保存・管理するアーカイブ部署で働き、自分のスキルを磨く選択もできる。その一方、自分が既に身につけた経験・知識を生かし、外国語授業の受講生のチューターや、自分の専攻分野の入門授業でのTAなどで働く学生も多い。また、留学生オフィスでイベント企画や新入生のメンターをしたり、前章3.で触れたWriting CenterCareer Centerで働いたりなど、カールトンの学生を助ける職種も、Webサイトで“Peer Leaders”と調べれば出てくる一覧にもあるように、豊富に存在する。単なる小遣い稼ぎや学費の足しなのか、自らの知識やスキルを磨いて生かす機会なのか、人によって学内アルバイトへの向き合い方は様々だが、それだけ自分に合ったアルバイトが見つかる確率が高いということでもある。希望する仕事に空きがあれば連絡をとって応募することがいつでもできるため、在学中にやりたいことが変わっていった自分は、4年間で6つの職種を経験することになった。

5. About Student Life (どんな生活環境︖)

Off Campus Studies (OCS)

カールトンでは7割を超える学生が留学を経験するが、時期としては2年春・3年秋が多い。ただ、行き先はアフリカ南部から東南アジアまで世界中に広がり、自分の専攻と留学プログラムとの関連度合いも含めて人それぞれ。自分も3年秋をハンガリーで過ごしたが、田舎で外と隔絶されたカールトンを出てキャンパスでの生活環境や過ごし方を振り返るいい機会だった。

キャンパスのあるミネソタ州ノースフィールドは人口2万人ほどの田舎町で、徒歩30分くらい離れた川向かいにSt. Olaf Collegeという全校生徒3000人くらいの大学がある点を除けば、レストランやスーパー、クリーニング屋や床屋などが一本の通りに沿って立ち並ぶ、典型的な小さな町のダウンタウンが存在するだけで、航空写真を見ればわかるように周囲は一面の農地である。大きな都市といえばミネソタの州都が車で1時間ほどの距離にあるが、課題で忙しいか友達と過ごすかであっという間に時間が過ぎていくため、期末試験直前に景気づけで美味しいものを食べにいく時くらいしか出かけることはなかった。基本的にはキャンパス内で過ごし、週末にたまに友達と町に夕飯を食べにいったり、食堂の閉まっている日曜朝に町のカフェに行ったりという生活だった。キャンパス内でできることも多く、平日は授業・課題や課外活動に取り組んで合間時間で友達と話していればいつの間にか1日が過ぎ去り、週末は学内の劇場やコンサートホールで友人が所属する演劇・アカペラの発表会を見に行ったり、パーティーを楽しんだりしているとまた月曜日を迎えていた。加えて、学生の95分以上がキャンパス内に住んでいて、2つある食堂で月〜土曜日は3食、日曜は昼・夕食がとれるため、4年間を通して大学内で過ごす時間は非常に長く、個人的にはそれに全く不満を感じるどころか、むしろカールトンを満喫できて嬉しかった。食事はビュッフェ形式で味に不満を言う友達もいたが、特にまずいと感じたこともなく、空腹時にあたたかい料理が苦労せずに食べられるだけで十分に幸せだと思うことも多々あった。最後に、天気について触れないわけにはいけないだろう。ミネソタ州も含めた米国の中西部は非常に冬が厳しいことで知られ、気温は常に氷点下で風も強いため外で過ごせる時間はかなり短い。ただ、キャンパスの建物は寮も含めて強い暖房が常にかかっているため、屋内ならば夏と同じ格好で過ごしている学生も少なくない。他にも、寒冷な気候を逆手にとってキャンパス中心部の大きな原っぱであるBald Spotでは冬の間にスケートリンクが作られ、体育館からスケート靴を借りてきて滑ったり、普通の靴を履いて柔らかいボールと箒でホッケーの真似事をするBroomballというスポーツで友達とチーム対抗のリーグ戦をしたり、凍てつく冬の楽しみ方も多く存在する。また、厳しい冬が終わって春がきた時の喜びは一入で、春学期の後半になると9時近くまで明るいため、アイスリンクが撤去されて芝生が生え戻ったBald Spotで友達と課題を進めたり談笑したりしながら山のように外で時間を過ごしていた。

Spring Term No Rules?

長い冬を抜けて迎える春学期は非常に楽しい。キャンパス内の湖に浮かぶMai Feteという小島でバーベキューやキャンプファイヤーをしたり、学内のバンドが野外コンサートを開いたりと外で過ごす時間は非常に多い。8週目のSpring Concert9週目のRotblattという一大イベント時には皆、夜明けから日暮れまで一日中芝生の上で過ごしている。

6. Good things about Carleton (プチ自慢)

クロスカントリースキーの跡が残る冬の日の朝のArboretum。澄んだ空気が気持ちいい。<br /> クロスカントリースキーの跡が残る冬の日の朝のArboretum。澄んだ空気が気持ちいい。

カールトンのプチ自慢といえば、フリスビーとArboretum2つが思い浮かぶ。学内のフリスビーチームがなぜか全米トップレベルで、アメリカの世代別代表に名を連ねる人も少なくないこともあってか、フリスビーはキャンパス内の文化として特徴的だ。新入生オリエンテーションの時には自学年用のデザインがされたフリスビーが全員に配られ、天気の良い日に休憩がてら友達と外でディスクを投げ合う機会もよくあるため、4年間を過ごすうちに気づけばフリスビーを投げるのが上手になっていた。

Cowling Arboretumはキャンパスの端から始まる東京ドーム約80個分の広大な森で、学業に疲れた時に春・秋はジョギングや散歩に行ったり、冬は体育館から用具を借りてクロスカントリースキーに行ったりと、気分転換しに足を運ぶことも多かった。暑い日には買ってきた浮き輪で森の中の川で過ごしたり、ハンモックを借りてきて野宿したりキャンプファイヤーをしたりと、自然の中で友達と過ごす時間が多く作れるのは田舎にあるからこその利点ではないだろうか。

7. One day in Carleton(自分の一日)

平日、授業のある日は以下のような感じ。休日は日中友達と遊んだり課題をしたり、夜は学内の演劇や音楽発表に行ったりパーティーに行ったり、忙しければまた課題を進めたりという過ごし方だった。

9:00 起床→シャワー→朝食(おやつ用にマフィンを二つほど食堂からテイクアウト)
9:50 数学科の質問対応アルバイト
11:30 卒論のミーティング。進捗報告や疑問点の相談など
12:30 学内のデータ収集・分析業務の手伝い(アルバイト)の隔週ミーティング
13:00 なんとなく食堂にいって目に入った友達と一緒に昼食
13:45 授業
16:00 図書館に移動し、友達の近くで勉強(疲れたら散歩に出たり、手の空いた友達と話したり)
18:00 夕食(夜食用に食堂からバナナを数本テイクアウト)
19:00 バレーボールクラブの練習
21:00 図書館に戻って勉強。授業課題のミーティングなども
24:00 就寝

Figures of Carleton 数字で⾒るカールトン大学(参考)

  • 留学生比率:11.4%
  • 学生数:2046名
  • キャンパスに住む生徒の割合:96%
  • 生徒数20人以下の授業の割合:7割、メジャーな学問の入門レベルの授業ほど履修者が多い
  • 専攻・副専攻の数:3337、自分用の専攻をSpecial Majorとして作ることも可能

著者:上田裕路(うえだひろみち)。Carleton College Class of 2021・数学専攻・グルーバンクロフト基金奨学生・私立武蔵高等学校卒業。

Contact Infohiromichi.e.ueda(at)gmail.com

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