得るものの多い実りある経験
アメリカの大学への進学を考えたのは、高校三年生と遅く、また英語は一番の苦手教科でした。ただ、小さい頃から宇宙や時空間の仕組みに興味があり、物理学者になりたいと思っていました。なので、ファインマンやアインシュタインのいたアメリカという国に漠然とした憧れはあったのかもしれません。
英語が苦手だったので、最初の一年は右も左も分からず、大変でした。ただ、リベラルアーツカレッジの良いところは、少人数のクラスが多く、また教育が主眼の大学なので、教授が生徒に時間を割いてくれることです。最初の一年は、ほぼ毎日教授のオフィスを訪ね、授業で分からなかったことを質問したりした記憶があります。教授もやる気のある生徒には惜しみなく手を差し伸べてくれます。アメリカの大学の良いところは、どんなに小さい大学であっても、個性的な生徒が多く多様性があり、様々な価値観に触れることができる点だと思います。また、私の場合は寮生活を通して、かけがえのない友人を得ることもできました。最初は違う文化、言語の環境に戸惑うことも多かったけれど、そういった経験は自分のコンフォートゾーンを広げてくれたように思います。大変なことももちろんありますが、それ以上に得るものの多い実りある経験でした。
卒業後の進路
物理学者になりたいという思いは、卒業するまで変わることはなかったので、卒業後Yale大学の院に進学しました。そこでは、主に銀河の大規模構造から暗黒エネルギーの性質を探る研究をしていました。大学院は専門的な勉強をする場なので、リベラルアーツとはまたおもむきが異なりますが、興味を同じくする友人と毎日物理について議論することができ、楽しかったです。アメリカの大学院は卒業するまでが長いので、その間に自分の研究や進路について悩んだり、煮詰まったりしたこともありますが、それも含めて、自分がこれから何をしていきたいのか、どういった形で社会と関わっていきたいのか、じっくり考えることのできた貴重な時間でした。
今は、カブリ数物連携宇宙研究機構で、ポスドクとして暗黒物質や暗黒エネルギーの研究をしています。物理でのポスドクの任期は、だいたい2、3年なので、この後どこで研究することになるのかは分かりませんが、今現在様々な国で暗黒エネルギーを観測的に制限するためのプロジェクトがあるので、そういったプロジェクトに今後も関わっていけたらと思っています。
リベラルアーツについて
リベラルアーツの全人的な教育は、幅広い学問に触れることで視野を広げてくれるだけでなく、小さなコミュニティのなかでの共同生活によっても育まれるのだと思います。教育熱心な先生方が多いので、学ぼうと思えば、本当に様々なことを学ぶことができると思いますし、英語が苦手でも意欲のある生徒には辛抱強く導いてくれます。また、寮生活や友人を通して、様々な経験や価値観に触れることで、多面的な人間性を育むことができるのも、リベラルアーツの魅力だと思います。
Knoxについて
Knox Collegeは、イリノイ州にあるリベラルアーツカレッジでGalesburgという町にあります(余談ですが、このGalesburgが舞台になっている、ゲールズバーグの春を愛す、というSF作品があったりします)。1200人規模の小規模な大学ですが、だからこそ教授とも生徒とも密なコミュニケーションが魅力です。それぞれの学科に個性的な先生が多いので、どのような専攻でも、深くも広くも学ぶことができると思います。ただ、やっぱりアメリカなので、それなりの積極性は大切かなと思います。私の場合、卒業後も連絡を取る友人や教授が何人もいます。Galesburg自体も小さな町なので、コーヒーショップで勉強していたりすると声をかけられたり、店員さんとすぐに顔見知りになったり、とてもアットホームな環境です。イリノイからコネチカットに移ったときは、はじめコネチカットの人の運転の荒さ(ゲールスバーグでは、どこでも歩行者優先ののんびりした感じだったので)などにびっくりしました。海外に住んだことのない人にも馴染みやすい環境だと思います。ただ、東京など都会からくると、そのギャップに最初は戸惑うかもしれません。
(2016年記)