リベラルアーツカレッジ留学とは宇宙経験に似ている
ジャーナリストの立花隆さんの名著に『宇宙からの帰還』というノンフィクションがあります。宇宙空間に出た宇宙飛行士が、漆黒の闇に青く輝く地球を眺める。この特異な体験により内的衝撃を受け、人生を大きく変えていく姿を描きます。政治家に転身するもの、ビジネスに身を投じるもの、神の存在を感じて宗教家になるもの。それぞれの新たな道を確信を持って歩む姿に印象づけられます。
リベラルアーツカレッジへの留学は、この宇宙経験に近いと思います。日本を出て、世界中・全米中から、様々な人種・国籍・経済的バックグラウンドの学生が集まるキャンパスで、彼らと寮生活を共有し、同じ釜の飯を食べ、世界的にみても最高水準の知的訓練を受けながら、切磋琢磨します。
日本代表として、このある種のミクロコスモスに参加すると、宇宙の外から地球を見つめるように、アメリカから日本社会を捉え直します。偏差値・ジェンダー感覚・人生の成功の定義等々、所与としていた様々な価値観が相対化されていきます。多様性の中で揉まれながら、「自分とは何か」、「自分はこの広い世界でどう生きていくのか」という根源的な問いに向き合うことになります。
私の同級生にはパレスチナからきた青年がいました。イスラエル兵から受けた醜い扱いについて生々しい話をよくしてくれました。同じ政治学の授業で机を並べました。食堂からの帰り道、私がふと、「日本の政治は停滞感があって、いまいち関心が持てないんだ」と呟いたら、彼は「パレスチナを救えるのは政治しかないんだよ」と鋭い眼光で語りはじめました。政治が、人の生あるいは死に直結する、熱量と可能性を秘めたものとして感じられるようになりました。彼は現在アメリカの大学で教鞭をとりながら、パレスチナのための活動を続けています。
寮生活を共に過ごした友人に、在韓米軍の基地で軍人の子として育った米国人の同級生がいました。軍の奨学金で学んでいたため、週末は軍服を着て訓練に出かけていました。当時はイラク戦争の真っ只中。暗くなったキャンパスの一室で、政治学の教授と生徒が集まり、イラク戦争の是非について深夜まで議論していた時代でした。彼女とも寮でよく議論しました。そんな日々を通じてお互い、国際政治の舞台で、公益のために働きたいという思いを少しずつ確認していった気がします。彼女は今、米国防省のインテリジェンス部門で活躍しています。
スワースモア大学には数十カ国から留学生が集まり、週に一度、皆が勢揃いして夕食をともにします。国籍もバックグラウンドも全く異なりますが、祖国を離れ、アメリカの大学で苦楽を共にするかけがえのない仲間であり、お互いを心の支えとしていました。本当に皆仲が良かった。これが私にとっての国際社会の原像です。
皆さんも、リベラルアーツカレッジという強烈な磁場に足を踏み入れることで、今は想像もできない可能性が開かれていくだろうと思います。そしてその過程で、たくさんのわくわく、学び、成長が待っています。私は、リベラルアーツカレッジ出身の友人がたくさんいますが、皆強烈なファンになって卒業します。
もちろん学業は厳しいですし、異文化体験に伴う苦労もあるでしょう。でもグルー・バンクロフト基金は、リベラルアーツ教育という人生を決定づける経験を共有する仲間が集まる一つの家族であり、我々が皆さんをサポートします。決して孤独な旅ではありません。
自ら責任を引き受けた上で、これにかけてみるという思いがあれば、必ず道は開かれると思います。そんな気概のある皆さんの応募をお待ちしています。